猫町倶楽部とは、参加者が毎回課題図書を読了して集まり、
それぞれの気付きをアウトプットすることで学びを深め合う読書会です。
- 2015年02月11日
- 智のいいなりになる悦び 猫町UG読書会 [後編]
*前編からの続きです。
相互公開装置としての異装
段々と各テーブルが盛り上がり出す中で
隊長のチアキさんにお話を伺いました。
うまーく文学オタク集中が回避されていることについては
「そういう人たちだけの場にしたくなかったし
とはいえ談義がしぼむのもいやだった。
そこでドレスコードで一定の制限しつつ
マスクの匿名性で話しやすくしようとしたの」
各々の参加者が装い、包み隠すことが
相互に裸になるための装置になっている。
また、各テーブルを見回して気付いたのは
参加者それぞれの本の扱い。
本の帯や表紙も外す人がいれば
書店の文庫カバーの人もいたり
ひとつの文庫カバーの中に2冊を納める人も。
付箋を貼る人にも全編一色の人も入れば
逆にかなり丁寧に色分けする人もいたり。
同じ本がこれだけ様々に使われている
その姿を眺められるのは予想以上に楽しい!
本自体が好きなワタクシには
新たなフェチに開眼する思いでした。
そんな本の持ち方・読み方・使い方が
実に十人十色なことについても伺った所
チアキさん自身いつも課題図書のテーマから考えて
お手製のブックカバーを作られるそう。
「わたしの読書会はブックカバーを作る所から始まるの。
そして、そのカバーと揃いの衣装も自分で作るの」
という格好よいエピソードを頂きました。
聞いて、語って、また聞いて。
どんどんと作品の中へ。
他では味わえない体験。
盛り上がる程にと時はあっという間に過ぎて
ここからは、今回のベストドレッサーの選出。
素敵な装いを見つけて、見つめて、見とれて、認める。
これもまたナカナカにフェティッシュな作業であります。
杏美月さんは隠した素顔と隠し切れない品格を評して
「清潔な年配の方と仮面の組み合わせは、なんかエロい」
「彼氏に突然マスクを渡されてつけちゃったけど、好いかも…」
なのでマスク以外の衣装はあえてのフツーという
作り込んだ設定が活きた方など。
水嶋かおりんさんは和装と緊縛を上手に組み合わせた女性を。
鈴木淳史さんは自作のマスクの男性を。
小沢カオルさんに選ばれたスケキヨさんは
わざわざ冥府からお越しとか。
壇上にはベストドレッサー。
普通の読書会にはない景色。
自己没入装置としての舞台
昂揚感の上昇気流が渦巻いた空間に
再び訪れたのは若林美保さんの舞台。
暗くなった舞台はどこか雪の降る遠い国を思わせて
そのままわかみほワールドに雪崩れ込んでゆきます。
一気に変わる空気の温度。
ふたつの想いなのか
ふたりの身体なのか
だれかとだれか
なにかとなにかが
惹かれ合っては引き裂かれ
混じり合っては引き千切られる。
肌は縄を
縄は肌を
相求める。
音と光と動きが織りなす混沌。
渾身で引かれた命綱は
かえって己に食い込む。
肌と髪
光と影
泣くか
笑うか。
指の先は震え、怯えているのに
胸の先は求め、裏腹に硬く尖る。
張り詰め、のけぞり
求めては、逃げて。
逃げては、また捕われる。
はだけた緋とのぞいた白。
真っ白は真っ赤の中に染まりゆく。
真っ赤は真っ白の内に果ててゆく。
緋色の襦袢の中では
真白い腿がおののく。
純白と深紅との契り
悲壮と優美との結び。
か細い腰に、なお細い朱い縄。
腰にかかった縄の下には太腿。
膝を上げ、脛を振り、足首を通じて、最後は爪先へ。
蹴り出し、先へ伸ばし、叶わず空を切る。
逃げ出そうとしているのだろうか
縋りつこうとしているのだろうか。
縄打たれては海老反り
鞭打たれては仰け反る。
天と地の間に、真っ逆さまの磔。
搔き抱くのが男なのか。
包み込むのが女なのか。
その逆だって浮世の常。
影絵の中では同じもの。
のしかかる。
うけとめる。
帰る所などどこにもないのに
逃げ惑うては連れ戻される脚、肢、足。
やがては静かに力尽きて、幕。
目の前で、ただ一人の女が音に合わせ身体をくねらせている。
突き放したつまらない言い方をすれば、それだけのこと。
でも、じゃあなんでそれっぽちのことを眺めているだけで
こんな気持ちになるんだろう。
確かに、言われれば裸の女性が踊るんだから
ストリップと言われれば、立派にストリップ。
だけど、だとしたらストリップと呼ばれる踊りの全てが
男の下腹を堅くするためだけの使い道じゃないってこと。
自分の本心を目の前に曝け出して来て
こちらの本心を求めるような生々しさ。
零距離の切っ先で自分自身の心性を
まざまざ突きつけられた思い。
時計の針と大団円
後は各テーブルの方が自由に行き来しての意見交換。
更に更に会場は高揚して活発になってゆきます。
宗教人類学者 植島啓司氏をして
「フレンドリー」
と言わしめたこの猫町UG読書会。
ワタクシが付け足すとすれば
「ラブリー」
でありましょうか。
読書はラブリー
交流もラブリー
それをリンクさせる猫町は
さらにラブリー
フェティッシュでいることはラブリー
その人らしくいることはラブリー
人はそれぞれにラブリー
読後感に代えて
一部が終わって、二部の懇親会が始まる前。
参加者の皆さんに伺った事で
ワタクシはちにとって意外だったのは
”ひとり”で参加する方の多さ。
「谷崎が好きだから」
「もともと猫町に参加して楽しかったから」
「マスクを着けてみたかったから」
など文学的向学心から変身願望まで
様々な理由で参加されてましたが
みなさん、とても満足されたご様子でした。
「今回は一人で参加したが、同じテーブルに
全く別の趣旨の全く別の催しに参加した人がいた」
などという奇跡の再会も猫町ならさもありなん。
「他の読書会にも参加しているけれど
ここは意見が混ざり合うようにとてもよく練られている」
という、参加してみての実感を伴ったコメントもありました。
また、もうひとつワタクシが感じたのは
”人の「考え」にふれること”の楽しさ。
ワタクシ、00年代からいわゆるナンパをして来ております。
とにかく昔から自分自身の直接体験や皮膚感覚を信じるタイプ
SNS、ブログなどはかなりニガテ。
それでもこの同時代に生きてるいろんな人と
たくさん話をしたいと思い
超アナログな方法論、町で声をかけ
異性/同性問わず知り合って話をしようと決意。
その出会いを楽しみとしてきたワタクシにも
共感できて満足できる内容でした。
どの課題図書も、どのテーブルも
毎回楽しいな、そんな実感と予感。
自分じゃない姿になって
自分そのものを曝け出す。
全員の記念撮影も和やかでいて異様。
取材でお邪魔したくせに楽しくて仕方ない時間でありました。
楽園を去りながら
一冊の本から、たくさんの言葉、思索、切り口、連想が生まれ
それらがすべてまた元の一冊に向かって集約され回帰してゆく。
何やらそのウロボリックな構図に二匹の蛇を思い浮かべます。
そういえば、智という禁断の実を最初の人間に齧らせたのも蛇だった。
行と行の間、章と章の間
膝と膝の間、襞と襞の間
狭いのに広がりゆく
禁断の智の愉悦。
智はフェティシズムの
αでありωなのかも。
それもまたウロボロスのよう。
分かり合うことの祭
分かち合うことの宴。
未知と蜜の溢れる密室の中で
智のいいなりになる楽しさ。
縁は書でもつ 書は縁でもつ
尾張名古屋は猫でもつ
とは、古い歌にも歌われたもの。
名古屋で始まった猫町倶楽部とその読書会が
今度はお膝元の名古屋で開催されるとのこと。
次回、ご一緒にいかがでしょうか。
猫の町は此処にある
●猫町UG TOKYO
6月21日(日)
新宿ロフトプラスワン
課題本:近日発表!お楽しみに!!
ゲスト:若林美保(モデル・女優・パフォーマー)
●猫町UG NAGOYA
6月27日(土)
新栄Live & Lounge Vio
課題本:ポーリーヌ・レアージュ「O嬢の物語」
ゲスト:植島啓司(宗教人類学者)
若林美保(モデル・女優・パフォーマー)
永遠嬢(女王様・緊縛講師)
テキスト:Feti.Tokyo hachi
フォト:Feti.Tokyo
フォト(若林美保):寺田幸弘