猫町倶楽部とは、参加者が毎回課題図書を読了して集まり、
それぞれの気付きをアウトプットすることで学びを深め合う読書会です。
- 2016年6月4日土曜日
- 【戯曲風開催レポート】関西文学サロン月曜会「桜の園/プロポーズ/熊」【第16回】
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登場人物
レッド(レッド・アンドレーエヴィチ・ドラゴン) 赤いシャツを着た男。お調子者。
ホワイト(ホワイト・イリイーニチナ・ルシアン) ロリータファッションの巻き毛の少女。毒舌口達者。
ブラック(ブラック・ヤーコヴレヴィチ・レイン) レッドの元相棒。非常にネガティブ。
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恵文社一乗寺店と呼ばれる本屋。ドアのひとつがCOTTAGEというスペースに通じている。6月4日土曜日、ツツジの花が咲き誇っている季節。あいにくの曇空、間もなく日が暮れる。レッドが大きな紙筒を持って、ホワイトが手に本をたずさえて登場。
レッド 「やれやれ、ようやっと着いたな。読書会は何時からだ?」
ホワイト 「17時からよ。(手の本を掲げて)6月の課題本はこれね。チェーホフの『桜の園/プロポーズ/熊』。関西文学サロン月曜会では、課題本を猫町倶楽部と恵文社が交互に選書しているの。今回は、猫町倶楽部の選書よ。3作の戯曲で、トリッキーなボードビル的登場人物が繰り広げるドタバタ喜劇・・・なんだけれど、「桜の園」は悲劇と捉える人もいるみたいね。わたしはどっちでもいいんだけど。」
レッド 「またお前はそんな適当なことを言って・・・チェーホフに怒られるぞ。俺は登場人物に感情移入ができなくて、明確な物語の目的がよくわからなかったから、そこのところの皆の意見を聞いてみるのが楽しみだね。」
ホワイト 「そうね。自分では解釈しずらかったところの見解を聞けたり、謎解きを皆でしたりするところも、読書会の楽しいところの一つよね。今回はどんな感想が飛び出すのかしら。・・・ところで、その紙筒は何よ?」
レッド 「これか?これはまぁ・・・(ニヤリと笑う)後のお楽しみだ。」
参加者が次々とCOTTEGEに集まってくる。今回は32名(内初参加者8名)。受付で名前を言って名札(呼んでほしいニックネーム)を書いてから、各テーブルに案内される。1つのテーブルにつき、6~7名のグループ。各テーブルには、ファシリテーターという司会役が1人ずついて、進行をスムーズに行うよう促していく。定刻17時。司会者が読書会の始まりを告げる。
レッド 「おっ、いよいよだな。気合いが入るぜ。さーて、どう言い負かしてやろうかな。」
ホワイト 「バカね。猫町倶楽部の読書会にはルールが一つあるのよ。『他の人の意見を否定しない』。皆がこれを守ることによって、気持ちよく感想を言い合えるんだから。」
レッド 「冗談だよ、冗談。さ、読書会の始まりだ!」
各テーブルの参加者、自己紹介をしていく。そして順繰りに、感想を言い合っていく。「登場人物の名前を覚えるのが大変だった」「プロポーズが一番テンポが良くて読みやすかった」「チェーホフってすごい人だと構えて読んだが『あれっこんな感じ?』と拍子抜けした。」「ラネフツカヤさんは可愛い」様々な感想が飛び交う。
ホワイト 「ふーん・・・『桜の園』は劇では悲しい物語として演出されていたり、喜劇としては捉えられないっていう人もやっぱりいるのね。」
レッド 「物語の筋がどうこうではなくて、登場人物の駄目なところをおもしろがったりする、っていう楽しみ方もあるんだな。しかし口で男を負かす女がよく出てくる話だよな。まるでお前が何人も登場してきているような気分になったぜ。」
ホワイト 「(聞こえないふりをして)名残惜しいけれど、読書会はそろそろ終了。ベストドレッサー賞を選ぶ時が来たわ。今回は『桜』ね。私は、作中に『桜』はロシア語では『サクランボ』のことで花は真っ白と書いてあったから、サクランボのレースの白のワンピースを着てきたわ。あんたは何よ、それ?」
レッド 「俺はアメリカンチェリーを買ってきた!サクランボを食べる俺自体が、ドレスコードだ!!(チェリーを1つ、頰ばる)」
ホワイト 「どういうことなの・・・。まぁ、ドレスコードも人によって色々な解釈で臨んでくるところがおもしろいわよね。今回は桜の小物を持ってきた人や、自分自身を桜の幹に例えて、そこに集まってくる鳥という意味で鳥柄のワンピースを着てきた人もいたわね。」
レッド 「(もぐもぐ)サクランボうまい!」
各テーブルの参加者から1名ずつ、ベストドレッサーが決められる。その後、皆で集合写真を撮る。読書会はこれで終了。引き続き、懇親会が始まる。ケータリングの料理が前のテーブルに並べられている。
レッド 「ヒューッ!ケータリングの食事だ!頭働かせたから腹がペコペコだぜ!」
ホワイト 「あら、あんたの頭ん中、産業廃棄物じゃなくて脳みそがちゃんと詰まってたのね。今回のケータリングは『ラトリエ・ドゥ・ミィ』さんよ。本の舞台にちなんで、ロシア料理を作ってくださったわ。作中に実際登場した、クワスという飲み物も用意してくださったのよ。まるで宝石を散りばめたみたいに、色とりどりで綺麗なお料理ね・・・ビーツの冷製スープは桜色で、可愛いわ。(目をつむってよく味わっている)ポテトサラダやジュレは、野菜のシャキシャキした食感が心地いいわ。クワスは、ちょっと酸っぱいのね。」
レッド 「(次から次へと料理を口の中へ放り込みながら)俺はうまいもんが食えれば、何でもいいけどな!」
ホワイト 「(冷たい目線を投げかける)・・・情緒に欠けている男ね。」
お品書き
ちびピロシキ、ビーツ入りのポテトサラダ、ビーツの冷製スープ、夏野菜のジュレ、ビーフストロガノフのパスタ、ブリニのオープンサンド、さくらんぼジャムのロシアケーキ、クワス
懇親会の途中で、席替えが行われる。テーマ別に人が集まる。今回は「酒、グルメ」「アニメ」「映画」「旅行」「本」。各テーブルそれぞれ違った盛り上がりを見せる。ここで気の合う者同士、さらに仲良くなったりする。
レッド 「いやー!懇親会も楽しかったな!俺は『旅行』テーブルだったんだが、皆の色んな土地への旅行話から最終的には阿波踊りについて熱烈に語り合ったぜ!」
ホワイト 「すごい話の流れね。私は『アニメ』テーブルでお互い見たことがあるアニメや漫画、ゲームの話をまったりとお話ししたわ。」
レッド 「(ホワイトに向かって指を指し)お前、オタクだもんな。」
ホワイト 「ほっといて。(ぷいっと拗ねる)これで懇親会まで終了ね。今回も楽しかったわ。同じ課題本を読んだ者同士、インプットとアウトプットが同時にできるって、貴重な機会よね。」
レッド 「これだからやめらんねぇよな!次回は7月2日土曜日、今度は恵文社選書の佐藤泰志『そこのみにて光輝く』か。何々・・・恵文社の紹介文によると、『40歳で自ら命を絶った、寡作の天才佐藤泰志の代表作。2年前こちらの原作を呉美保監督によって映画化もされました。北国の炭鉱と港の町を舞台に、季節の移ろいとともに話が展開する傑作です。』 ・・・か。これもまた楽しみだな。」
ホワイト 「そうね。7月9日土曜日には『ビギナー限定読書会』もあるわ。これは猫町倶楽部参加回数が0~2回までの方限定ね。課題本はデール・カーネギー『人を動かす』と谷崎潤一郎『春琴抄』(新潮文庫)の2つの内、1つを選んで読了していくのね。そうそう、猫町倶楽部はmixiのコミュニティでも、読書会後に話し足りないこととかを語ったりしているのよね。後で関西文学サロン月曜会のmixiコミュニティものぞいて、鬼の書き込みしなくっちゃ!(にっこり笑う)」
レッド 「(呆れ顔でホワイトを横目で見ながら)お前あんだけ読書会でマシンガントークかましてたじゃねぇか・・・まだ話し足りないのかよ。ま、そうやって読書会後もコミュニケーションがとれるってのも、猫町ならではだな!さてと!一乗寺駅まで一緒の皆と話しながらぶらぶら帰りますか!」
ホワイト 「ええ、また来月ね!」
恵文社COTTEGE、暗転。灰まみれの陰気な男、ブラックがのっそりと登場。
ブラック 「(ドアに歩み寄って、ノブに手をかける)鍵が掛かっているな。読書会は終了したんだ・・・。(ベンチに腰を下ろす)俺のことなど忘れて・・・。なに、かまやしないさ・・・ここにこうして、座っていよう・・・。(横に置かれた紙筒に気づく)これは・・・!あいつは、この紙筒を使わずに帰ったのか・・・!(しょうがないやつだ、といった表情で首を横に振りながらため息をつく)まったく!大雑把な奴で世話がやける!(ぶつぶつとつぶやいているが、意味はとれない)あいつは、俺がいないと駄目なんだ・・・、俺が相棒でないと・・・!(がっくりうなだれる)こうしてお迎えが来たって、なんだか生きた気がしないな・・・。(横になる)少し眠るか・・・。俺にはもう、何も残っていない・・・。ええーい、てやんでいちくしょうめ!・・・・・・(深い眠りに落ちたように見え、ぴくりともしない)」
夜の小雨の中、参加者のにぎやかな話し声と足音が遠ざかっていく。
やがて、ふたたび静まりかえり、ただ暗闇で虫が飛び交う音だけが聞こえる。
幕
<文:あおい 写真:タクミ、ゆうみ>