扉を開けると本の向こう側の世界が広がっていた。

猫町倶楽部とは、参加者が毎回課題図書を読了して集まり、
それぞれの気付きをアウトプットすることで学びを深め合う読書会です。

  • HOME>
  • 開催結果レポート>
  • 柴田元幸が月曜会にやってくる第7弾!!スティーヴン・ミルハウザー「魔法の夜」

名古屋文学サロン月曜会[文学]

  • 2017年4月1日(土) 
  • 柴田元幸が月曜会にやってくる第7弾!!スティーヴン・ミルハウザー「魔法の夜」

2017年4月1日、”春雨の降りそめしより青柳の糸のみどりぞ色まさりける”という和歌を思い起こさせる気候の中、藤ヶ丘JAZZ茶房靑猫で柴田元幸さんをお招きして行われた月曜会特別イベントのレポートをお送りします。今回は65名のみなさん(うち初参加6名)にご参加いただきました!







「もう7回目なのですね、今年もよろしくお願いします」とオープニングで和やかにごあいさつをされる柴田さん、月曜会に春がやってきました。

課題本のスティーヴン・ミルハウザー「魔法の夜」は柴田さんによる選書です。今回は第一部読書会、第二部翻訳教室・トークショー、第三部懇親会の三部構成です。第一部の読書会が始まると、メープル味のナッツのケーキを片手に各テーブルからにぎやかな会話が聞こえてきます。



「物語を読んでいる、というより絵画を鑑賞しているような印象を受けました」
「夏の夜はアメリカでは年度のかわり目、何かが起こりそうな予感がずっとしていた」
「ミルハウザーのほかの作品を読んでからこの本をもう一度読んでみたい」
「今回の本はすごく贅沢な装丁だからこのまま飾っておきたい」
「注釈を読むのがとても楽しかった」





「月の光でみんながおかしくなったのかな?」
「夢か現実かわからなくなる、不思議な一冊だと思います」
「どの物語も放り出されたような感じがするけど、最後になぜか落ち着く印象があります」
「日本人でいうとミルハウザーって誰になるのかな?」「宮沢賢治じゃない?」
「片目のモコモコ熊がカワイイ、声優さんに朗読してもらいたい」
「色についての描写が幻想的で美しいがエグい性的な描写もあってバランスが独特だと思います」



「ダメな男が多いと思うけどハヴァストローがいちばんまともかもしれない」
「女の子の盗賊団だけど昼間はどんな子たちだと思う?」
「まじめでいい子だと思います」
「ミセス・カスコが素敵」
「ミセス・カスコって男の幻想だよね?」



柴田さんが読書会中各テーブルを回り参加者のみなさんの質問に答えています。
「変わった人たちばかり登場しますね?」
→「昼間うまく生きられない人々が夜になんとなく救われた気になり、明日も頑張ろうという気になれる、そういう物語ですよ」
「ミルハウザーの世界観について教えてください」
→「夜は大人ではなく子供の世界です、ただしサッカーボールで活発に遊ぶような子供が登場する世界ではありません」

第一部の読書会の終了の時間が近づいてきました。靑猫マスターの高橋さんが課題本に合わせて選ぶ「今日の一曲」はブラジルのジャズから、エグベルト・ジスモンチのアルバム、マジコ(「魔術師」の意)よりパリャーソ(「ピエロ」の意)を鑑賞します。「音を伸ばすところと、切るところが独特で普通ではないリズムです。しかし慣れるととても心地よい一曲です」と曲を紹介する高橋さん、かっこいいサックスとしっとりとしたベースの爽やかで明るい音が会場に流れていきます。





本日のベストドレッサーのみなさんです。今回のドレスコードは「登場人物」です。
ミセス・カスコのゆったりとしたガウンを思わせる和装、作中のマネキンになぞらえてのワンピース、女の子の盗賊団サマー・ストームのメンバーに扮した方、酔っぱらいのクープの仕事着をコーディネートした方、個性的で華やかな方々が並びました。



そして今回は柴田さんがベストドレッサーの中のベストを選出してくださいました。
サマー・ストームに扮したCテーブルのシータさん(写真右端)、おめでとうございます。「決め手は作中に描かれていた手紙まで再現してくれたことです」と柴田さんも驚いています。第一部はここで終了です。





第二部の翻訳教室・トークショーが始まりました。
柴田さんへ今回の課題本に関する多くの質問が寄せられています。
一部ですがご紹介します。



Q.この作品を翻訳するときに気を遣ったところは何ですか?
A.ミルハウザーは語順がとても丁寧です。翻訳するときに文章のカメラワークには気を付けました。しかしそうすることで長い文章が途切れて文章の息が短くなります。語順をとるか、文章の息の長さをとるか、今回は語順をとりました。

Q.ミルハウザーとはどんな作家ですか?
A.翻訳者が誤訳をすることを嫌って翻訳者のために作品に関するメモを送る、とてもデリケートな作家さんです。お付き合いは長いですが少し怖いと感じるところがあります。しかし昨年初めて実際にお会いした時に誠実でとてもあたたかい方だと思いました。

Q.今回の作品にも出てくるdarkという単語が訳す時に難しいそうですね?色について翻訳するときに気を遣いますか?
A.darkと完全に一致する日本語の言葉はありません。「黒い」でも「暗い」でもあり、使い分けがとても難しいのです。特にミルハウザーは作中で素材がどんな色かを省略せずに描く作家さんです。なんでも丁寧に描写しないと気が済まない不器用な方なのかもしれません。

Q.将来的にAIが翻訳の仕事をするようになると思いますか?
A.AIが発達すれば人間は敵わないでしょう。しかし、機械が文学を理解することはありません。翻訳の手本はあくまでも人間なのです。

Q.次回の名古屋会場の課題本「僕の名はアラム」の作者、ウイリアム・サローヤンはどんな作家ですか?
A.アルメニアの移民の息子で庶民的な共同体の中で育った人物ですが、この作品を読むにあたって作者に関する事前の知識は持っていないほうがよいかもしれません。まっさらな気持ちで作品を楽しんでください。

たくさんの質問に答えてくださった柴田さん、次は翻訳教室の時間です。今回はチャールズ・レズニコフの無題の詩の翻訳に36名の生徒たちがチャレンジしました。



I like this walk in the morning
among flowers and trees.
Only the birds are noisy.
But if they talk to me,
no matter how witty or wrong,
I do not have to answer;
and if they order me about,
I do not have to obey.


36名すべての訳に柴田さんがひとつひとつペンを入れてくださいました。特に注目した優秀な訳には次のようなコメントをくださいました。
「witty or wrong を軽妙軽薄と韻を踏んで訳しているのが面白いと思います」
「こちらはリズムが心地よいですね」
「言葉遣いがすごく独特、どうしてこんな言葉を選んだのか私のほうが教えてもらいたいです」

などなど…。
課題が詩であるため明らかな誤訳はありません。オーソドックスな訳や強烈な個性が光る訳が入り混じる中、二つの名訳が選ばれました。


★最優秀賞 ひろ

私はこの花々や木々の間を行く
朝の散歩が好きだ。
鳥のさえずりだけが騒がしい。
例えば鳥たちが私に話しかけたとしても
それがどんなに軽妙でいても間違っていても
私は答える必要がないのだ。
例えば鳥たちが私に命令したとしても
私は従う必要がないのだ。

柴田さん評:リズムがよく、オーソドックスにとてもよい訳です。
(ひろさん曰く、実は高校3年生の子どもに訳してもらいましたとのこと!)


★技能賞 くるみ

朝の散策
花と木々
騒ぐ鳥ども
物言えど
軽口悪口
聞き流す
指図命令
従わぬ

柴田さん評:視覚的に非常に面白い訳です。何か文学的な素養がおありですか?
(くるみさんは俳句を作られているそうで、今回は七五調になるように訳したそうです。柴田さんも絶賛!)

そして第二部の最後は柴田さんのギターの弾き語りで締めます。
今年の一曲はボブ・ディランの「風に吹かれて」です。柴田さんの歌声と演奏に一同耳を傾けます。




第三部の懇親会では会場をアンヴォーグに移し、柴田さんを囲んで夜が更けるまでにぎやかに談笑しました。

参加者のみなさん、半日にわたる月曜会の一大イベントへのご参加ありがとうございました。次回もまた月曜会でお会いしましょう!



猫町倶楽部はmixiコミュニティをメインに情報を発信しています。課題本についてまだまだ語りたい方のための「話し足りん!総合トピック」や、「ブックバトン」などのトピックも。
ぜひ積極的に利用してみてください。mixi – 名古屋文学サロン月曜会


<文責:おりがみ 写真:テラダユキヒロ

開催結果レポート一覧に戻る

最新の開催結果
【猫町オンライン】シネマテーブル『ザ・ファイブ・ブラッズ』
【猫町オンライン】シネマテーブル『ザ・ファイブ・ブラッズ』
開催結果をすべて見る
  • 入会・参加方法
  • メディア掲載実績
  • 取材について
  • 特定商取引法に基づく表記
  • 名古屋シネマテーブル水曜会

このページのTOPに戻る