猫町倶楽部とは、参加者が毎回課題図書を読了して集まり、
それぞれの気付きをアウトプットすることで学びを深め合う読書会です。
- 2017年11月8日(水)
- 月曜会名古屋会場 フィリップ・K・ディック「アンドロイドは電気羊の夢を見るか?」
11/8(水) 第119回名古屋文学サロン月曜会 『アンドロイドは電気羊の夢を見るか?』フィリップ・K・ディック(参加者54名・うち初参加者6名)
今回の開催レポートは課題本に合わせた物語風だよ☆
(サポーターお手製のテーブル札と共に♪)
火星から逃亡した新型アンドロイドが日本へ逃亡したため、太平洋を挟んだロサンゼルス警察にも捜査の協力依頼があった。
調査メモによれば、アンドロイドは名古屋で開催された読書会に潜入したらしい。酸性雨が上がった街中、私は読書会会場となったカフェへ向かい、アンドロイドを探すこととなった…
「受け付けはこちらです! お名前をお願いします。」
読書会の運営スタッフだろうか。捜査の協力を求めると戸惑った顔をしている。
「あの…協力というと、いったい…?」
「私が聞いておくわ。皆はサポーターの仕事があるでしょう」
奥の席に座っていた、黒い髪のほっそりとした娘が歩みよってきた。流行のロングコートのポケットに手をつっこんだまま、顔には険しい不機嫌な表情がうかんでいる。
「ありがとう、レイチェル」受付の女性はほっとしたように言うと、彼女は私を隅の席へ促した。
「レイチェル?」
「そうよ、私の名前。もちろんニックネーム。読書会ではニックネームで参加する人が多いの」
「で、捜査って何をするの? 参加者の眼球でも見て回るの?」
席に座るなり彼女は言った。
「調査メモがある。これに該当する人物を探している」
「今このカフェにいる中に該当する人物は?」
ぐるりとカフェの中を見渡してみる。受付の女性、本を読む壮年の男、カフェの主人、数名の店員。
「いや、いないね」私はそう答えた。
「そう、じゃあ、その人物が現れるまで隅の方に座っていてちょうだい。カフェは貸しきっているのよ。じゃまはしないで」
それだけ言ってレイチェルは席を立った。
座ったままもう一度カフェの中を見渡してみる。
コーヒーを焙煎する香りが漂い、店員がテーブルの間を行き来する。
カフェの主人と先ほどの運営スタッフ(レイチェルはサポーターと言っていた)の話が聞こえてくる。
「今日は小さな焼き菓子が焼いてある。1人二つずつで大丈夫かな?」
「ええ! 二つで充分ですよ!」
しばらくすると参加者が次々とやってきた。まだ学生にも見える若者から老人まで、さまざまな年代の人間がいる。
「それでは7時になったので読書会を始めたいと思います!」
席の9割が埋まったころ、時間になったのか司会が前に出て話し始めた。
読書会では各8人ほどのグループに分かれるらしい。それぞれのテーブルで感想を言い合っているのが聞こえてきた。
「最初に読んだのは40年前。その時はあまり面白いとは思わなかった。今、映画も観てSF世界の想像ができるようになったら、とても面白かった」
「映画『ブレードランナー』とは大分内容が違うね~。比較して語りあかしたいです!」
「私、SFってあまり読まないけど、これは面白かったです」
「読むの難しかったです。読んでいるうちに、誰が人間でどれがアンドロイドで、何が何だかわからなくなってしまって…」
「執筆当時のアメリカ文化の影響がすごくある」
「現代の技術から見ると古く思えるものもあるけれど、核の脅威や宗教など未来世界の様子は1979年の作品でも変わらない」
「今の日本でこそ読む作品ではないでしょうか」
「しかし、立ち位置のブレないイーランがある意味最強」「確かに(笑)それでも最初と最後では随分印象が変わったなぁ」
淡々と会話が続くテーブルもあれば、笑い声が頻繁におこるテーブルもある。
メモを取り出して読み上げる者、人の感想を聞きながら本を確認する者、ただ頷きながら聞いている者、だが調査メモに該当する物はいない。もしかしたら調査メモが間違っているのかもしれない。きっとそうに違いない。ちくしょう。
ふっと遠くの席に座っている男と目が合った。
50がらみの血色のいい丸顔の男だ。この季節にしては厚ぼったい外套を着ていた。
彼がアンドロイドではないだろうか。
今すぐにでも検査をしたい。いや、その前に取り押えてしまう方がいい。やられる前にやっちまえ。
立ち上がろうとした時、近くのテーブルでどっと笑い声がおこった。
レイチェルのいるテーブルだ。
彼女は笑いながら席を立つとテーブルに背を向け、私のそばに来た。
「さっきの遅刻者で今日の参加者は全部よ。…お探しの人はいた?」
「いや、いない」座ったまま答える。
「なら、なぜまだここに居るの?」
彼女を見上げる。
「…調査メモに書かれている人物以外にもアンドロイドがいるはずなんだ。つまり仲間が。この会に来る人間で、思い当たることはないか?」
「アンドロイドの可能性のある人? そもそも、アンドロイドってどんな感じなの? 機械仕掛けのロボットなんて、ここでは見たこともない」低い声で彼女は言った。
「見た目は普通の人間と変わらない。だが、アンドロイドには感情移入能力が無い」
「『課題本の読了』がこの会のルールよ。小説を読むなら感情移入すると思うけど」
「楽しみ方は他にもある。それに能力があるように見せかけている場合もある。しかし長く一緒にいると不自然さが現れる。思い当たることは?」
「不自然さ、不自然さ、ね。わからないわ」
一瞬、レイチェルが動揺したように見えた。
「この読書会では毎回1,2割は初参加の人がいるの。知っている人ばかりでは、無いわ」
「感情的な議論になることはないのかい?」
「ないこともないけど、『人の意見を否定しない』というルールもあるから、あまり攻撃的な事を言う人はいない。作品自体への文句は出るけどね」
「アンドロイドがいないかどうか、このまま感想を聞かせてもらう」
「…どうぞご自由に」
「しかし、検査方法、えげつないよね~(笑)」
「検査受けてみたい。そして自分がアンドロイドだったら製作者に文句言いに行く~『悪趣味だろ!もっと楽しい記憶にしろよ!』って(笑)」
「ちなみにフィリップ・K・ディックの他のおすすめは、『ユービック』と『高い城の男』です!」
「自分の事をアンドロイドだと自覚していないアンドロイド、この存在がなんとも言えない。この作品の面白さだと思う」
「うん、人間らしさって何?アンドロイドと人間の違いって何?って考えてた…」
「フィル・レッシュは結局人間なの? アンドロイドなの? 自分の存在を悩む彼を応援したくなる」
「アンドロイドと人間の境があいまいで、リックももしかしたらアンドロイドでは?って思って…」
「結局マーサー教とバスター・フレンドリーは何なのだろう? マーサーの行進はキリストの受難を表しているの? 面白かったけど、よくわからないことも結構あった…」
8時45分、読書会の終了が告げられると、レイチェルはまた席を立って私の元へ来た。ここでは私が読書会を妨害する恐れのある監視対象というわけだ。
各テーブルから一人ずつ、司会に促されて前に出て行った。それぞれ順番に自分の服装について説明をしている。
「あれはベストドレッサーの発表。課題本に合わせてドレスコードがあるの」
私が見ているのを察したのかレイチェルが言った。
「今回は『羊』か『アンドロイド』。どう?あなたが探しているアンドロイドはあの中にいて?」
「いや、いないと思う。しかし、日本ではああいったコートが流行っているのかい?」
「あれは映画のオマージュ。この本、映画化されたから、それに出てくる刑事の服装よ」
レイチェルは私を見ると鼻で笑った。
「あなたより彼らの方がずっと刑事らしく見えるわね」
「刑事じゃない。賞金(バウンティ)だ」
「あら、まあ、そうなの? それは知らなかったわ」レイチェルは突然声をあげて笑いだした。
「でも、本当に?」
「今日はテレビの取材があったの。そのうち放送されるんですって」
私が黙っているとレイチェルは言った。
「テレビに映るってどんな感じかしら。私たち全員、人間らしく見えるのかしらね…」
アンドロイドは未だ発見されていない。
今回参加者多数のため別会場も設けられたとのことで、そちらに潜伏していたのかもしれない。
「本日の懇親会は羊にちなんでジンギスカン料理です。サポーターが案内しますので、カフェの前でお待ちください!」
懇親会会場にはレイチェルは居なかった。
7~8割ほどの参加者は懇親会に参加しているのに…
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●mixiコミュニティ『名古屋文学サロン月曜会』
【http://mixi.jp/view_community.pl?id=2226186】
●mixiトピック『話し足りん!』
【http://mixi.jp/view_bbs.pl?comm_id=2226186&id=77626066】
原案:涼
本文:へなこ
写真:涼、へなこ
※文中のテレビ取材は11月17日にNHK「ほっとイブニング」にて放送されました。