猫町倶楽部とは、参加者が毎回課題図書を読了して集まり、
それぞれの気付きをアウトプットすることで学びを深め合う読書会です。
- 2016年11月3日 受付開始:8:40~
- 杉本博司さん自身のレクチャー有!「ロスト・ヒューマン」展鑑賞会&図録読書会
東京都写真美術館のリニューアル・オープン記念として開催された「杉本博司ロスト・ヒューマン」展。
11月3日文化の日、猫町倶楽部東京藝術部では、杉本博司さんご本人にギャラリーツアーをしていただき、展覧会図録を課題本とした読書会まで行うという豪華企画が実現しました。
猫町倶楽部では普段、この開催レポートが掲載されている本HPからの申し込みを行っているのですが、今回は特別な機会ということもあり、mixiの東京藝術部コミュニティで先行募集を開始。結果、本募集を始める前に定員申込みとなる大盛況の会となりました。
東京都写真美術館への集合時間は、朝の9時。というのも、今回は杉本博司さん本人の解説を聞きながらの形でギャラリーツアーを行うため、一般の開館時間以前に猫町俱楽部の参加者を特別に入館させて頂く形での開催となったからです。
猫町俱楽部で美術館を貸し切ったような特別な機会、50名弱の参加者も遅刻ゼロという気合いの入りようでした。
ギャラリーツアーは3階からスタートします。3階の展示は<今日 世界は死んだ
もしかすると昨日かもしれない>と題され、文明が終わる33のシナリオに沿ったインスタレーションが展開されます。
エレベーターから杉本さんご登場!早速会場入口に置かれた巨大な地球儀にまつわるエピソードに話が進みます。この大きな地球儀、フランスの劇場コメディ・フランセーズでの舞台の道具として使用されたものを、杉本さんがオークションで手に入れたのだそう。
リニューアルしたての美術館ですが会場内は古びたトタン板で覆われ、さながら廃墟のよう。杉本さんの後に続いて、みんなで作品を順番に巡りました。
※会場内は撮影禁止のため、写真はありません。
文明が終わる33のシナリオはそれぞれ≪理想主義者≫≪比較宗教学者≫≪宇宙物理学者≫…と題され、遺書という形で33通りの文明の終わりが物語られます。このテキストも杉本さんの手によるもの。
化石や隕石、雷神像からラブドールまで、たくさんの物が集められ、その物たちと杉本さん自身の作品を織り交ぜた33通りの展示です。
どの展示物からも、その作品に込められた思いや、その物を手に入れた時の杉本さんご自身のエピソードに話が広がりました。ひとつひとつの物からストーリーが湧き立つ、まさに「物語」。お話を聞かなければ気づかなかったかもしれないポイントをいくつも知ることができました。
ツアー中には、ロックンロールを歌い踊る展示品のロブスターと一緒に杉本さんが英語の歌を口ずさむ一場面も。(美声でした!)
続いて2階の展示へ移動。この展覧会で世界初公開となる写真作品<廃墟劇場>は、杉本さんが1970年代から制作している代表作<劇場>が発展した新シリーズです。
撮影を行った実際の廃墟のひとつは全米での犯罪率1位という治安の悪いエリアにあり、夜中の撮影時に警察に銃を突きつけられるという危険な場面もあったそうです。
そして京都の蓮華王院本堂(三十三間堂)の千手観音を撮影した作品<仏の海>のインスタレーションを観て、ギャラリーツアーは終了しました。
人類の文明の終焉というテーマとは裏腹に、杉本さんには終始冗談も交えながら作品を解説していただき、笑いの絶えない和やかなギャラリーツアーとなりました。
休憩をはさんで後半は1階のスタジオで読書会。今回の課題本は「ロスト・ヒューマン展の展覧会図録」というこちらも普段とは違う形での開催です。図録には今回展示されていた文明が終わる33のシナリオと、廃墟劇場の作品ひとつずつに添えられていた文章が収録されていて、参加者は事前にそれらを読んでから集まりました。
感想を通じてやはり一番多かったのは、「事前に図録を観てからギャラリーツアーを見る事で、普段の美術館とは違う見方で鑑賞できた」という声。書物の形で集約された情報としてだけでなく、知った上で実物に触れるということ。事前のイメージと実物の印象を重ね合わせること。普段の読書とは真逆の方向かもしれませんが、そういった発見を共有するのもまた読書会の楽しみです。
読書会の後半からは杉本博司さんに各グループを順番に回っていただきました。著作やギャラリーツアーを通じて抱いた感想や疑問、気になる事を製作者自身に尋ねられる特別な機会。杉本さんも楽しそうに質問に応じていました。
終始穏やかながら、深い教養と洞察力、そして禅のようにハっとさせるユーモアを交えて言葉を交わす杉本さん。その佇まいが既に一つの作品のような存在感に溢れています。
読書会終了後には記念写真を一枚。なお、「猫町俱楽部のメンバーへのオススメ本」はジャレド・ダイヤモンドの『銃・病原菌・鉄』とのことでした。既にアウトプット勉強会で課題本に取り上げたことのあるこの本、未読の人は一度手に取ってみてはいかがでしょう。
読書会も終わり、最後は会場を変えてモンスーンカフェ恵比寿店での懇親会。これまた普段とは少し違ったランチタイムの懇親会、アルコールも入ってないはずなのに話し足りない美術館の話や今後の猫町のイベントについて、会話に花が咲いています。
今回の読書会についてはゲストの杉本博司さんはもちろん、東京都写真美術館のスタッフの方々の協力が無ければ実現不可能な企画でした。この場を借りて、改めて美術館職員の方々にお礼を述べさせて頂きます。
早いもので気が付けば今年もあと少し。2016年、東京藝術部のイベントは分科会が一同に集うクリスマス会を残すのみ。場所は今回の懇親会で使ったモンスーンカフェの代官山店、課題本は杉本博司さんも大きな影響を受けた20世紀最大の現代芸術家が受けたインタビュー、『デュシャンは語る』。次回もお待ちしています。
文:なり・次郎 写真:きむ