猫町倶楽部とは、参加者が毎回課題図書を読了して集まり、
それぞれの気付きをアウトプットすることで学びを深め合う読書会です。
- 2018年4月8日(日)
- 柴田元幸が月曜会へやってくる第8弾! マーク・トウェイン『ハックルベリーフィンの冒けん』
桜散った後の、少し肌寒く感じた2018年4月8日。今年も藤が丘JAZZ茶房靑猫で、柴田元幸さんをお招きしての、月曜会特別イベントが行われました。今回は66名(うち初参加6名)の方にご参加いただきました。
今回の課題本は、マーク・トウェイン「ハックルベリー・フィンの冒けん」です。アメリカで、1885年に発表された作品です。浮浪者ハックと黒人奴隷ジムが、ひょんなことから一緒にいかだでミシシッピ川を下ることになり、様々な騒動に巻き込まれていくようすが、ハックの一人称により語られています。
柴田元幸さんによる翻訳は、去年の12月に出版されました。帯には「柴田元幸がいちばん訳したかったあの名作」と書いてあり、みなさん興味をそそられたのではないでしょうか。
イベントは、第一部読書会、第二部トークショー・翻訳教室、第三部アフターパーティの三部構成で行われました。
まず、第一部の読書会が始まると、各テーブルで、色々な感想が飛び交いました。
「ハックの処世術はすごい。嘘が上手すぎる!うろ覚えの知識からよくそんな切り返しができるな、と感心してしまう」
「ハックの適応能力が高すぎ!育った環境を考えると仕方がないけど、なんだかな…」
「どんな問題にも立ち向かい淡々と解決するハックは、頭のいいリアリスト」「そんなハックが『キリスト教的正しさ』と『人格的正しさ』との間で悩み、成長していく物語」
「ハックは恵まれない環境だけど、真っ直ぐで、そこがこの物語の救いになっている」
「ハックって素直で良い子なんだろうなって思う。こんなに養子にしたいって人がいるんだから」
「ハックは辺境のヒーロー。トムみたいに村のコミュニティに属してないからこそ、別のコミュニティ(ジムを初めとする黒人社会)との橋渡し的存在になれる」
「ハックルベリー・フィンという名前はアメリカではどういうふうに捉えられるんだろう?トムとかメアリに比べて明らかに普通の名前じゃないよね?」
「トムがだいぶ嫌なというか変なというかぶっ飛んだやつになってますね…」
「ジムを小屋から救い出すところが面白かった。トムが可愛らしく思えた」
「ルールを作って行動するトムと、それに上手く付き合うハックが、アメリカとイギリスの関係みたいだった」「時事的に、私は高畑勲監督と宮崎駿の関係を重ねてしまいました」
「トムとハックは似ているようで違う二人。また、お互いを意識している。所謂バディものの原点のようなキャラクター設定が魅力的」
「ハックのジムへの眼差しは、父の影を追っているのではないか」
「ジムのハックへの優しさは、ジムの娘に対してできなかった優しさでは」
「ハックが「ジムの心は白人なんだ」とモノローグで語るシーンがショッキング。ハックにも差別の心がある。だからこそ、ハックとジムの関係、ハックの成長の重みが増す」
「国も時代背景も違うので、「ジム(ニガー)を助ける=裏切り」がしっくり来ない」
「ハックの良心と、ジムを逃がそうとする思いの葛藤が面白かった」
「当時のアメリカ南東部って結構豊かだったんだなぁって思った。判事がいる、劇場が立つ、既製服がすぐに買える」
「DV、宿怨、殺し、死体等は現代に生きる自分には肌に合わなかった」
「銃の文化も日本にないので、子どもが銃を持っているのが物騒に感じる」
「かなり衝撃的な描写もある中、卑猥さがないのがいい」
「一つ一つのエピソードは悲惨だったりもするが、ところどころ笑えて、読後感は爽やか」
「『トム・ソーヤーの冒険』も読んで欲しいです!こっちは比較的ほのぼのしてますよ」
「たまたま行ったのがトムの親戚の家だったというのが、ご都合主義に感じる」
「設定に少し無理があると言われてるけど、ドン・キホーテよりは全然ましだから読めた(笑)」「その無理めな設定と、主人公が子供ってことを活かして、複雑な問題を上手く表現していると思う」
「本そのものが宝の地図のよう。だから自由に読んでいいし、迷いながら読んでいい」「でも、そこに答えを見つけようとすると、撃たれちゃう(笑)」
読書会中、柴田さんも各テーブルを順番に回り、参加者の質問に答えてくれました。
第一部終了の時刻に近づくと、青猫マスターの高橋さんが、課題本に合わせて選んだ「今日の一曲」を紹介してくれます。今回は、Steve Kuhn、Joe Henderson、Steve Swallowが演奏している「Lazy Afternoon」でした。
「個人的な話ですが、夏が近づくとこの本が読みたくなって、この本を読むと釣竿を持って釣りに行きたくなる。けれど全然釣れなくて、河原で寝込んでしまう。そんなときの気分にぴったりな曲です。タイトルを直訳するとけだるい午後ですが、3人の演奏によって、けだるい雰囲気が出ています」とのことです。ゆったりとしたリズムで、のんびり、くつろいだ気持ちになります。
第一部の最後には、各テーブルで選ばれたベストドレッサーの発表がありました。今回のドレスコードは「冒けん」です。
それぞれ本日のポイントを教えていただきました。
「夜の川をイメージした服に、ジムとハックが乗っているいかだのブローチを付けてきました」
「ニガーのイメージで黒づくめの服に、カヌーのブローチにハックの帽子を作ってきました」
「トムが港に着いたときのイメージで、冒けんに欠かせない地図を持ってきました」
「いかだに乗ったハックの服装をしてきました。かぶっている帽子を前にすると花が付いており、可愛らしく女装したハックになります」
「自分が冒けんに行くならどんな服装か考えて、遭難したときのためのチョコも持ってきました」
「全身、冒けんするときのような格好をして、双眼鏡を持ってきました」
「ハックのように、片方だけサスペンダーをして、ぶかぶかのズボンにアメリカのシャツを着て、ハットを被ってきました」
「冒けんと聞いてジブリのラピュタを思い浮かべたので、パズーの格好をしてきました」
みなさんの考えた、各々の「冒けん」の世界観があって、見ているだけで楽しくなります。
そして今回は、柴田さんがベストドレッサーの中のベストを選出してくださいました。
選ばれたのは、Dテーブルのへなこさんでした。「みなさんクリエイティブですが、遭難したときのことも考えていたのが決め手」だそうです。おめでとうございます。
第一部はここで終了です。
つづいて、第二部のトークショー・翻訳教室が始まります。
トークショーでは、柴田さんに寄せられた多くの質問に対して、一つ一つ丁寧に答えてくださいました。
その一部をご紹介します。
Q.一番訳したかった理由は何ですか?
A.アメリカ小説で良いと思うのは声ですが、この作品は、語りののびやかさ、しなやかさが他のどのアメリカ小説よりもあって、魅力的でした。また、他の人がしていないことができるのではないかと思いました。でも、結局いい小説だから訳したいに尽きます。
Q.この作品で好きなシーンはどこですか?
A.第32章、p395最初からp397の1行目までです。ここだけ水が全くないけれど、しずけさがあります。この後トムが主役となり、このしずけさが戻ってこないと思うと、より好きです。
Q.p530に載っている「ハックとジムの旅」は、柴田さんの手書きですか?
A.そうです。この作品は、ご都合主義なところがあり、蓋然性はないですが、いきあたりばったりに書いている適当さが魅力だと思います。なので、地図を付けるにしても、精密なものでなく適当な、緩いものにしたいと思っていました。「このへん」とあるのも意図的です。
Q.ヘミングウェイは終盤のトム主導の茶番劇は「読まなくていい」と言いますが、柴田さんはどうお考えですか。
A.ハックが英雄的なことを考えて終わると、この本の魅力である適当さがダメになってしまうので、ドタバタ茶番劇を付け加えざるを得なかったのではないでしょうか。
・この作品で重要なのは、ジムの変容です。最初と最後で全然違っています。ジムは元々立派なものを持っていましたが、黒人奴隷として発揮できる場がないまま生きてきました。そのため人間が変わったというより、真の人格が現れたのです。
・ジムが実はハックの父は死んだと最後に言うことで、ハックが生物上の父から離れ、精神的な父ジムに出会う物語です。
Q.翻訳の合間の気分転換には、何をしていますか?
A.気分転換は必要ないです。翻訳が好きなので。人生の合間の気分転換に、翻訳をしているようなものです。パソコンではなく手書きでしているので、目も疲れません。気分転換が必要になったら、翻訳をやめるときかなと思います。
たくさんの質問に答えていただいた後は、翻訳教室の時間です。
今回の課題文は、Norman Lock, Trio (Triple Press, 2005) に収められた、“Émigrés”と題した断片集の中の一断片です。
事前に出された課題文に、35名の生徒がチャレンジしましたが、すべての訳に柴田さんが直接ペンを入れてくださいました。当日返してもらった添削を見て、みなさん嬉しそうでした。
選ばれたいくつかの訳は、前のスクリーンに映してその場で添削していただけました。
「同じ言葉の反復は減らした方がいい。亡命者と亡命があるから、亡命の方は、『祖国を離れた暮らし』などの表現に変えるとよい」
「『腕』ではなく、『脇』に挟んだ、としたところがいい。『一家をなしていた』という表現もいい」
など具体的に教えてくださり、勉強になりました。
そしてベスト翻訳に選ばれたのは、ゆきさんの訳でした。おめでとうございます。
柴田さんから、ジェームズ・ロバートソンの小説を訳した手書き原稿が贈られました。彼が1年かけて書いた365の短編小説のうち、1月2日の物語です。
第二部の最後は、柴田さんにギターの弾き語りをしていただきます。
今年の一曲は「スカボロー・フェア」です。きれいなギターの音色と歌声が、青猫に響き渡り酔いしれます。
第三部のアフターパーティでは、会場をトルタドゥエに移します。
柴田さんを囲んでまだまだ聞き足りないことについてお話したり、おいしいお酒とごはんと共に参加者同士語り合ったりと、楽しい時間を過ごしました。
第三部までは半日にわたる長丁場となりましたが、素敵な春の思い出になりました。
次回もまた、月曜会でお待ちしております。
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文責:なな
写真:苺、Yu
名古屋月曜会10.5期サポーター