猫町倶楽部とは、参加者が毎回課題図書を読了して集まり、
それぞれの気付きをアウトプットすることで学びを深め合う読書会です。
- 2018年7月14日 受付開始15:30 読書会16:00〜18:00 懇親会18:00〜20:00
- 関西文学サロン月曜会×猫町UGコラボ 第41回『O嬢の物語』ポーリーヌ・レアージュ
Oの恋人が、ある日、彼女を散歩に連れ出したのは、二人が行ったことのない界隈、猫町UGがまだ一度も開催されたことのない関西だった。地下鉄がとまっているのを見つけた。「乗れよ」と彼が言ったので、彼女は乗った。夕暮れも遠い、夏の日であった。
「さあ、今度は仮面をつけるんだよ」と彼が言った。どこへ行くのかもわからない地下鉄のなかで、彼女は、仮面だけはきちんとつけて、じっと身体を固くしたまま、だまっていた。
「着いたよ」と彼が急に言った。着いたのだ。
会場The Buggy
地下への階段を降りると…
「いいかい」と彼が言った、「ぼくはきみを置いて行くよ。受付を済ませたら、サポーターの人たちに命ぜられたとおりにふるまえばいい。ああ、ぼくもあとから行くよ。きっとね」
笑顔が素敵ですね
受付にいたのは二人の女、二十一世紀の可愛い猫町サポーターのような服装をした、若い美しい二人の女であった。二人とも、首からはネームホルダー、口のまわりにはマスクをぴっちり着けていた。
アンドレとジャンヌ…?
ともあれ、この女たちが、受付で戸惑っていたOにドリンクチケットとネームカードを手渡してくれたのであり、どのテーブルに行けばよいかを彼女に告げたのである。
彼女はそれから、言われるままに、かるくよろめきながらテーブルへ進んだ。テーブルの上には、課題本シールとネームホルダーとが置いてあった。頭上には、二階のバルコニーが張り出していた。
そうこうするうち、サポーターの女が、目の前に差し出されたOの白く豊かな紙質にひどく気をそそられて、これを用いて読書会を開始するべくマイクを要求した。そして火照ったOを両手で押し開き、かなり苦労して開会を宣言したが、読書会中、彼女のもらした感想によると、このUGをもっと開催する必要がある、とのことだった。
「第41回関西文学サロン月曜会×UGコラボを始めます!」
それから、Oは次のようなルールを聞かされた。 「お前は他の参加者によって意見を交換されるために、ここへ来たのだ。つまり、読書会に身をまかせることだ。お前が絶対に人の意見を否定しないことを命令する。」
ふくろうの仮面をつけたUG隊長チアキさんに司会をバトンタッチ
恋人はやさしく微笑を浮かべ、Oの手をとると、タツヤ卿だよ、と紹介した。Oはまるで、自分が課題本として値踏みされ吟味されているような気になった。事実、彼女が課題本であることは自分でもよくわかっていた。
主宰のタツヤさんによる挨拶
タツヤ卿の静かな落ち着いた声が、ふかい沈黙のなかで鳴り響いていた。
「きみは今日、ぼくと参加者たちとのあいだで、共有され語られることになるのだ」
チアキ隊長の「乾杯!」の合図とともに読書会スタート
こんな状態の彼女に向かって、ファシリテーターは次のように言い聞かせたのである。すなわち、参加者たちはこれからお前について語ろうとするだろう。それは長く、深く、しかも容易には終わらないはずだ。
・誰かが一方的に支配するというより、誰もが何かに服従している
・ルネやステファン卿はムキになってOに次々と試練を与えるが平然と超えられ、最後はOを怖くなったのでは?(展開がドラゴンボール的)
・ルネとステファンはOの強すぎる欲望の前では神であることに挫折するしかなかった
・穴に入れるか口でやってもらうか肉欲しかないなんて、なんて貧しい人たちなんだろう
・「あなたが喜ぶことなら何でもする」と言い切れるぐらい愛せる相手に巡り合えたOは幸せ
・自分の愛する人を他人に譲渡するというルネの行為には自己愛が含まれている
・Oの「くれくれ」態度にルネもステファン卿もひいているのでは?
・ロワッシーはみんな自分に都合のいい人たちの集まり
・Oの自殺は前向きな自殺で、彼女にとっては幸福な結末だった
・自分の愛する人が多くの他者から欲望されているのを見ることで優越感を感じ、自分の優位性を示すことができる
・現代では「自由」は幸福な状態とされているが、すべての選択を自分で行い責任をもつことを幸福だと思わない人もいるのでは?
Oはいまだかつて、これほど完全に自分以外の人の意志に身をゆだねたことも、これほど完全に課題本になったことも、そして、これほど課題本であることに生きがいを感じたこともないような気がした。
乗馬用の鞭!もしや下男ピエールの…?
チアキ隊長はふたたび登壇して、「そちらはベストドレッサーと呼ばれる方」と紹介し、「受賞者たちをこっちに連れてきてちょうだい。みんなによく見られるように」と各テーブルに命じた。
仮面もチャイナドレスもよくお似合いです
本場イタリアの仮面と、手作りの仮面でベストドレッサー
「美しくなるためには、そのくらいの思いをしなければね。これから毎日仮面をつけたままでいてちょうだい」
チアキ隊長とベストドレッサーのみなさん
参加者全員で集合写真
「おいで、O。きみに用があるんだ」とタツヤ卿は言った。そこでOは目をあけると、近くに、タツヤ卿以外のもう一人の男がいるのに突然気がついた。
タツヤ卿は男の名前を宗教人類学者の植島啓司さんだと言い、加えて「教授だよ」と言って慇懃に彼をOと参加者に紹介した。
植島さんは『O嬢の物語』が大好きだそうです
その日、Oは初めてタツヤ卿と、植島さんと、参加者と一緒に、仮面をつけたまま食事をした。鎖は脚のあいだに通して臀に引きあげ、腰のまわりに巻きつけておいた。
ようやく陽の光も消えはじめ、喋っていた参加者も残らず帰ってしまうと、タツヤ卿と教授とは、Oの足もとで後片付けをしていたサポーターを帰らせ、それからOを立ちあがらせ、彼女の鎖と仮面をはずし、彼女をテーブルの上から拾い上げ、二人でかわるがわる──────
削除された最後の章では、Oはふたたび会場The Buggyへもどり、そこで忘れ物を受け取るのである。
Oの物語には第二の結末がある。つまり、タツヤ卿に閉じられようとしている自分を見て、彼女はむしろ次の課題本になることを選んだ。タツヤ卿もこれに同意した。
(おわり)
※この開催レポートは課題本『O嬢の物語』の内容に忠実に従い書かれたフィクションです。登場する人物の台詞含む言動の大部分は実際と異なります。
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次回の定例会は浴衣読書会、8月4日(土)「さかい利晶の杜」茶室にて開催です。
お点前体験の後、岡倉覚三(天心)『茶の本』について語り合いましょう!
文章:まみ 写真:SSK、すっぱまん